このシアターで上映される映画は無条件に良いものに違いないというバイアスがなくもなく、前評判はもちろんのこと、あらすじも読んでないし、予告編も観ていないという状態での観覧である。ゆえに駄作をつかむことも多々あって、その場合は途中で消化試合だなあと感じてしまうのだが、本作もストーリー的には消化試合感があった。
だが駄作ではない。でも良作でもない。
では、どのあたりが駄作ではないのかという点にフォーカスしてレビューを書くことにしたい。
本作は1960年代のアメリカ、モンタナ州を舞台に、父・母・息子の3人のファミリーのありふれた日常とその急激な変化を、主には息子の視点から描いている。
息子からみた父と母。プライドを持ち、社会に貢献する存在であるために戦いたい父親。子育てがひと段落し、母である以上に女性である母親。子供心には、両親は見習うべき、完璧な人間に思えるが、あるきっかけを通して両親は完璧な存在ではないことを悟る。その先には、子、自らが切り拓き、踏み出す世界が存在する。
これが、本作の本題である。
つまり、ファミリーに訪れた転機を中心に、「大人の階段」というやつを昇るような、主人公の「成長物語」として描かれていて、それ自体は特段予想も期待も裏切らない展開であるため、至極退屈でしかないのだ。ゆえに、この点だけを挙げてしまえば駄作感は満載で、眠くなるし、実際少し寝たかもしれない。
反面、本作を駄作に留めなかったものは何だろうか。それは、映像としてのモンタナの美しさに他ならないし、家族一人一人の心理描写が丁寧だった点である。派手さはないが、心には残る。
カナダにほど近いアメリカの片田舎の町といえば、それだけで閉塞感が漂うが、モンタナには美しい自然があり、開けた空があり、そして背景にように広大な山脈がある。ただそれだけが、美しく、この映画を魅力的なものとしている。
そして、閉塞感を打ち破り、かすかな希望の象徴として降雪を使った点も美しく、山火事の有り様を映像ではなく音で表現した点も素晴らしい。表現の勝利といってしまえばそれまでだが、表現とは、映画にはシナリオ以上に重要な要素である。
本作の監督であるポール・ダノの本職は俳優で、本作が初監督作品とのこと。脚本はもう少し頑張ってほしいが、演出面などは今後も期待したい。
